なろうと中世ヨーロッパ

なろうと中世ヨーロッパ

中世ヨーロッパ的世界を舞台とした小説作成のための参考資料と小説レビューを記事にしています!

窓とヨーロッパ

 

 

なろう小説において、主人公が高級な宿屋に宿泊する場面や王侯貴族の館での場面で壮麗な装飾が施された窓の描写があるかと思います

しかし、多くの場合においてその窓の描写は正しく中世ヨーロッパ風ではない、もしくは詳細な描写がないことが多くあります

そこで今回は、ヨーロッパの窓について簡単にまとめていきたいと思います

 

 

 

 

窓がある理由

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皆さんは各家、各部屋になぜ窓があるのか考えたことはあるでしょうか?

それは壁で囲われた暗い家の中で光を確保するためなのです

 

窓のない家を想像すると少し分かりやすいかもしれません

 

電気やガスはなく、ろうそくや薪は高価な時代です

家に窓がなければ部屋の中での作業はままなりません

そのため、過去の人々にとって外から明かりを取り込むことは急務でした

特にヨーロッパのような石・レンガ造りの家が主流な世界では、外から入る光は限られる場合が多く、窓がなければ部屋の中は暗黒の世界だったでしょう

 

一般に電気が普及し、夜の暗闇の中でも灯りが確保できる現代ではあまり想像がつかない世界かもしれません

 

しかし古代から電気・ガスが普及する近現代までの人々にとって、部屋の中に外の光を取り込むことは重要なことだったのです

 

 

中世ヨーロッパのガラス窓

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中世ヨーロッパの窓は、今の価値観からみると窓というにはあまりにお粗末なものがほとんどでした

それは中世ヨーロッパにおいて『ガラス窓』というものがほとんど存在しなかった事に起因しています

 

ガラス窓というものは古代ローマの時代には高価ですが存在していました

古くは西暦79年に火山の噴火で壊滅したといわれる古代ローマの都市ポンペイの公衆浴場にはガラス窓があったといわれており、また、3世紀ごろになるとローマ全域の公共施設や一部の富豪の家に窓ガラスの痕跡がみつかっています

 

そのため、中世にも一部の教会などではガラス窓があったといわれていますが、ほとんどの場合、例え王族の宮殿であってもそのようなガラス窓は採用されませんでした

 

その大きな理由としては、中世ヨーロッパ世界は後期に入るまでの長期間に渡って各地で戦乱の状態が続いていたからです

 

一見、戦争と窓は無関係に思えるかもしれません

しかし、窓と戦争には大きな関係があります

前項で説明した通り、窓は明かりを取り込むためにありますが、一方で大きな窓というものは外敵の侵入経路になってしまうのです

 

そのため、貴族の城はガラスを使用した窓などはつけたくともつけることができなかったのです

貴族の城にある窓といえば、敵の侵入を妨害するための攻撃用の窓か様子を伺うための小さなのぞき窓くらいだったでしょう

 

また、戦争には貴族の他に傭兵も多く参加していました

そういった傭兵は戦争が終わり仕事がなくなると、野盗や野武士と呼ばれ、略奪や盗人で生計を立てていました

そのため全体的に治安はとても悪く、お金のある教会や一部の富豪もせっかく買った高価な窓ガラスを割って侵入されては堪らない為、窓にガラスを使うことを控える場合がほとんどでした

 

このような状況から、ガラス自体の需要が大きく減り、生産そのものが内部に工房を持つ一部の教会などでしか行われない状況になってしまいました。古代で発展したガラス製造技術の多くがこの時代に失われてしまったのです

 

そのため、例え地域として戦争が終息し状態が安定していた場合であっても、ガラスの生産はほとんど存在せず、買い求めることは困難でした

 

つまり、なろうの小説における王侯貴族の城や高級宿のガラス窓の描写は多くの場合、前期の中世ヨーロッパ的ではない、ということができます

 

 

中世ヨーロッパの窓からの明かり

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では、中世ヨーロッパにはどのような窓があったのでしょうか

 

まず最初に農村部の家の窓から紹介したいと思います

中世後期以前の農村部は基本的に自給自足で、貴族への納税も収穫した作物から物品で納税だったため貨幣の流通は極少量でした

そのため、窓ガラスはもちろんガラスの代用になる物を購入するすべはなく、比較的裕福な地域の農村でも窓には雨露をしのぐための木製の鎧戸のみ、もしくは窓すらない家も多々存在しました

農村部の人々にとって家は、あくまで雨露や寒さをしのぐ為のシェルターとしての役割が主だったのです

 

一方で都市部の貴族・都市貴族を含む裕福な家などでは、窓にはガラスの代用品が用いられることもありました

ガラスの代用品となった物の種類は多様で蝋を薄く引いた亜麻布や油にひたした羊皮紙、引き伸ばした牛の胆のうや膀胱など、光を通す多くの物がガラスの代用品として用いられていました(日本の障子紙などをイメージするとわかりやすいかもしれません)

 

ただし、このような代用品が用いられていたのは都市部の家の中でも極一部であり、一般の家ではやはり窓がない家が多く存在していたようです

 

つまり、真に中世ヨーロッパ風な窓の描写をするのなら、『一般的には窓が全くない、もしくは光を完全に遮ってしまう鎧戸のみであり、また一部の裕福な家では窓枠に雨や風が入らないよう加工した布や紙、動物の皮などが利用されていた』ということになります

 

 

中世後期の窓

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中世も終盤に差し掛かるとやっと各地で長く続いた戦争の時代が終わりの兆しが見え、ガラスの需要が増えるとともに一度失われた製造技術が再び広まり始めることで、だんだんとガラス窓も増えていきました

各地で時期に差はあるかと思いますが、13世紀にはイタリアのヴェネツィアでガラスの製造が始まっていたといいますからその前後からだんだんとガラスが普及し始めた、と考えて良いと思います

 

ただし、この頃はまだ庶民が簡単に購入できるほどガラス窓は安価ではなかったため、庶民は瓶を砕いてガラス片を繋ぎ合わせたり、瓶をそのまま利用して外の光を取り入れる事が多かったようです

 

また、ガラスの生成方法が未成熟であり、この頃のガラスは純度が低く完全な透明にはならなかったため、あえて色を付けて窓にはめ込むようになったのが、教会などにみられるステンドグラスの始まりでした

 

中世ヨーロッパ風の舞台をイメージして作品を書いている作者様方の多くはこの時代をイメージしているのかもしれませんが、それにしては窓ガラスは高価である、という部分には触れていても、他のガラス製品について記述のある作品は少ないように感じています

窓ガラスよりも小さく生成も簡単な瓶などの方が、数多く安価で流通していたのは間違いなく、庶民はそれらのガラス製品を上手く利用して屋内に光を取り込んでいました

もしこの時代を元に世界観を作るのであればそれらの点に触れるとより世界観に深みが出るのではないかと思います

 

 

おわりに

いろいろと書きましたが、小説はあくまでフィクションですので、物語にガラス窓があることを私は否定しません

私はただ、現実の窓にも歴史があるということを知って欲しいのです

もし小説の筆者様方の世界に窓があるのならそこにはどんな歴史があるのでしょう

窓という小さなところからでも、筆者様方の世界の構築に役立てればと思います

 

ポケモンが楽しくて前回の投稿から期間がだいぶ空いてしまいました。継続して文章を書き続けられる方々には感服する限りです。これからも遅筆ながら記事を書き続けていきたいと思いますのでよろしくお願いします